【研究分野】

蛋白質分子モーターによるミクロ運動系の構築.蛋白質の直接的標識と検出方法の改良,生体分子の張力・変位のナノ計測系の開発

 

(a) 研究概要;生物の内部で動くもの

生命 − 絶え間なく物質やエネルギが流入出する非平衡で動的な系です.それを維持するために,約3万種の蛋白質が,せわしく動き,働いています.特に,張力を発生したり,物質を輸送する蛋白質は細胞骨格・分子モーターと呼ばれ,マイクロよりもっと小さなナノマシーンとして細胞の運動に秩序を与えています.生物が進化の過程で獲得した柔軟なナノマシーンの機構を調べることで,工学的応用を目指します.

 

「等方的なゆらぎから一方向性の運動を生み出す分子機械(アクチン・ミオシン滑り運動)」

 

 筋肉は化学エネルギを力学エネルギに直接変換できる生体機械です.その機械の最も小さい“運動の要素”を取り出して,その運動を直接に観察します.運動の要素であるアクチン線維とミオシン(アデノシン3リン酸分解酵素)が相互作用しアデノシン3リン酸(ATP)が分解されたとき,アクチン線維は滑らかに一方向に運動します.熱揺動の大きなナノメートル世界で,秩序よく運動するための調節機構とはどうのようなものなのでしょうか?蛋白質レベルの相互作用においても生命のエッセンスはすでに備わっているのかもしれません.

 

 

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図1:蛍光顕微鏡法によって観察されたアクチン線維.アクチンを失活させることなしに特異的に染色することで,数十オングストロームの大きさの蛋白質分子を検出できる.加えて,その分子運動をリアルタイムで観察・測定できる.蛍光顕微鏡(光学顕微鏡)は生命現象を理解するための強力なツールである.

※画像横幅が50µmに相当

 

 

(b) 研究方法

・アクチンとミオシン

 アクチンとミオシンは筋細胞だけではなく,植物にも認められる広く普遍的な蛋白質です.それゆえ,その機能は生命現象に直結します.さらに,その動作原理は,多くの蛋白質で共通なものであるかもしれません.様々な細胞からこのような蛋白質を単離し,その性質をみたり,または,細胞内でのそれら蛋白質のいとなみを調査します.

 

・画像解析によるナノメートル変位計測

 光学顕微鏡の分解能は,光の波長で決まってきます.そのため,本来0.5ミクロンより小さい構造を識別することがでません.しかしながら,独自の画像解析を行うことによって位置検出感度をナノメートルまで高めたり,蛍光標識方法をうまく設計することによって,蛋白質分子内部の動きを検出することができたりします.このような画像解析技術や標識方法の改良・応用に取り組んでいます.